フルート秘話

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フルートをもっと知りたいあなたに、
現場スタッフがお届けするフルートづくりのあれこれ

  • 引き上げトーンホール工程
    -Drawn Tone Hole Process-
  • ハンダ付けトーンホール工程
    -Soldered Tone Hole Process-
  • ハンドメイドパーツ製作
    -Hand Manufacturing-
  • ハンドメイド頭部管製作
    -The meticulaous art of soldering the riser-
  • タンポ調整・組み立て
    -Assembling the parts of the work-
  • 完成品検査
    -The final examination for the highest standart-
  • 完成品
    -The Pearl collage of craftsmanship-
  • 工場見学〈Workshop〉(英語版のみ)

第13話 刻印



パールフルートユーザーの皆様のフルートには固有のシリアルナンバーが刻印されています。この番号は、製造、出荷等の管理を行うだけでなく、お客様と楽器を結ぶ情報のひとつでもあり、修理の際の履歴を確認したりすることも出来ます。時には盗難に対してもシリアルナンバーが有効ですが、この様なトラブルで役に立つことはないよう気を付けてくださいね。現行のモデルには4桁から6桁の数字が胴部管体のどこかに刻印されています。機種やシリーズ、時代によっても刻印してある場所が異なるのです。シリアルナンバーが楽器に刻まれていることを知らない方もいると思いますので、どこにあるか見てみてください。ご自分のシリアルナンバーを覚えている方もいらっしゃることがあり驚きます。いずれにせよ、シリアルナンバーがあなたの楽器の唯一の番号であることに気がつくと楽器に対してより愛着がわくのではないでしょうか。シリアルナンバーにおいては彫刻機械による刻印が主流ですが、必要に応じて1つ1つの数字をパーツなどに手で刻み込む事もあります。

また、番号以外にも、頭部管の種類のロゴや材質の表記なども人の手で打ち込まれます。

少しお話は変わりますが、社会科見学、体験の校外学習、幼稚園の園児から中学生の方まで幅広くご来社いただいております。(※一般の方の見学はご遠慮頂いております。予めご了承ください。)初めてフルートに接する方や、吹奏楽などでフルートを吹いていますという学生の方など様々ですが皆様いろいろな工程によりフルートが出来ていく様子に驚き、興味を持って見学されます。簡単な作業を体験していただく場合もあります。先日工場見学を兼ね、楽器の試奏にいらして頂いた、大平治世様(東京音楽大学在学、相澤政宏先生門下)臼井彩和子様(東京音楽大学在学)に手打ちによる刻印を体験していただきました。お二人には管を切断する作業、トーンホールを引き揚げる工程も経験していただきました。
写真からも熱心に取り組む様子が感じられます。ご来社ありがとうございました。

第12話 バフ研磨

これがバフです。何枚も重ねた布が丸く形成されていて、外周にあたる部分に研磨材を付けます。何種類ものバフを使ってだんだん輝きを引き出します。


高速で回転しているバフに、磨きたい部分を押し当て研磨して行きます。熟練の技が無くては成り立たない仕事です。


「楽器を磨く」と申しますと、ほとんどの方はクロスを片手に楽器を拭き上げることを想像されると思います。しかし製造現場の磨きはこれだけではありません。今回は製造における磨き、「バフ研磨」についてお話しいたします。
 この耳慣れないバフ研磨の「バフ」とは、使用する道具の名前で、中心に穴の開いた円盤状の布を何枚も重ね合わせたものです。これを高速回転するモーターの軸にはめ込んで表面に研磨剤を塗布し、磨きたいものを押し当てて研磨を行います。
研磨前の楽器のパーツや管体の表面には、溶接などの熱加工による酸化皮膜や、金属材料自体に含まれるごく微小な気泡や不純物、その他細かな傷などが散在している状態になっています。作業者はこの表面の状態を見極め、適切なバフと研磨剤の種類を選択してこれらを磨き落としていきます。 パールフルートの表面仕上げは大きく「メッキ仕上げ」と、素材をそのまま磨き上げる「無垢仕上げ」の二種類に分かれます。どちらも研磨では表面の傷や不純物を隅々まで除去することが求められますが、さらに無垢仕上げの場合はそこから素材に豊かな光沢を与える研磨を行うことになります。これらの作業方法にも、色々技術、こだわりがありますし、この工程を経ることによって、それぞれの仕上げによる音の特徴が付加されることになりす。
その中でも頭部管の研磨は特に気を使う部分の一つです。歌口の穴周りの加工は繊細なため、わずかな磨きの不足や過多によって吹き心地や音色を損ねてしまうことがあります。作業者にとっては緊張が連続する部分ですが、一本一本がきちんと音を奏でる基準を満たすまで丁寧に研磨を行っております。 バフ研磨によって得られる光沢は実際にお客様が楽器をご使用になるにつれ、どうしても徐々に減衰してしまいます。しかし上にも述べたように研磨の役割は表面の光沢だけでなく、楽器の音色や操作感を大きく左右するものでもあります。お客様の中で楽器をお持ちの方は、一度ご自身の楽器をじっくりと眺めてみて下さい。決して形には表れない作業ですが、そこには様々な音に対する思いやこだわりが詰まっているのです。

第11話 天使のいたずら

見にくいかと思いますがヒョロヒョロとしたキズがリッププレートに付いています。よく有る引っかきキズです。


バフ研磨によって磨かれたリッププレートです。綺麗に直っているでしょう。


どんなに気を付けていても、キズは付いてしまうものです。練習の合間などフルートの場合、当然パーツを上に向けて置いていただいていると思いますが、丁寧に置いているつもりでもフルートの裏側には細かいスジ状のキズが付いているものです。私はこれを『天使のいたずら』と、勝手によんでいます。本当に見事に丁寧に使っていただいている方のフルートでさえこのキズだけは有るように思えるからです。

誰もが知らないうちに付いてしまったキズや、へこみには、気分もへこみます。まして自分のミスで、楽器を落としたり、何かにぶつけてしまうケースなどはなお一層気分が落ち込むことでしょう。もう吹きたくなくなった!なんて方も修理を依頼された中にいらっしゃいました。今同じように思っている方もいるかも知れません。修理してしまいましょう。持ち込まれる修理には当然重症なものや軽症なものまでさまざまですが状態の酷いものの原因に、うっかりフルートの上に座ってしまった、フルートを持ったままで転んでしまった、等が多いようです。皆様も十分気をつけてください。さて先ほどからキズ、キズと繰り返していますが、これにもいろいろありまして、範囲の広いフルート全体に付いているもの、局部的に付いているので目立つもの、浅いもの、深いものそれは様々です。調整などで修理にお預けする際、気になっている部分のキズに関しては、折角ですからご相談、お見積りをしてはいかがでしょう。意外とご本人が気にされている所は、修理する側では解らなかったりするものです。お預けの際、明確にしておくと過剰な修理になる事が避けられるかも知れません。メッキ仕様のフルートと無垢素材のフルートでは修理過程が異なる場合も有ります。あくまでもご参考までの事で状態により一概にはいえませんが、同じキズが付いていると仮定し完全になくすのを目的とした場合、メッキ仕様の再メッキ仕上げの修理期間より、無垢素材の研磨仕上げの方が早く仕上がる場合も有ります。キズ取りの段階を経て仕上げとして研磨により光沢をだすという作業、それがバフ研磨です。次回はこのバフ研磨についてのお話をしたいと思います。

第10話 爪という道具

第9話でのバネ、その曲線は指先の微妙な力加減で調整されます。バネ掛けにバネが掛かった時、自然にまっすぐになるよう修正されます。


フルート作りにはそれはそれはたくさんの道具、治具が必要です。
それぞれの工程で使うものが違うのは当然ですが、同じ作業をしている技術者の机の上にもまったく同じ道具はほとんどありません。それぞれ手の大きさや、体格の違いもありますが職人としてこだわり始めるのが道具であるからで、またそこに職人としてのプライドも生まれてきます。

まだ技術者とも呼べない新人は、ひとつひとつ仕事を覚えていきながら先輩から道具を与えられていきます。教えてもらいながら作る時もあれば年季の入った道具を受け継ぐということもあります。作った道具にしても譲り受けた道具にしてもさらに改良を加え手に馴染んだものにしていきます。

道具といっても加工されたものばかりでない事をお話します。それが爪です。さまざまな状況で何気なく爪を便利に使用している事に気が付くことがあります。それは爪を切った後日の作業に違和感や、作業そのものがしにくいと感じたりします。フルートには小さな部品が使われていますが指先でそれらをつまむ事さえ影響したり、細かな磨き上げのデリケートなタッチにも関係します。普段から爪の長さには気を使っていますが、お客様の前で調整をする試奏調整会がスケジュールにある時は、その日がベストになるように心掛けてもいます。手先が器用だという表現をしますが、爪の役割が大切なのでしょう。私たちには爪も大事な道具のひとつなのです。

第9話 バネ

カンタービレのストリップされた管体をアップで。画像では質感をお伝えできないのが残念ですが、身近な価格設定の中で出来る限り素材とつくりにこだわった、マエスタ直系の総銀製フルートとして、幅広いユーザーからご愛用頂いているモデルです。


ベーム式フルートのメカニズムはたくさんのバネに頼っています。
近年はバネ材の技術が発達し、古くは鉄だけであったものがステンレスや高級材としては合金材も品質の良いものが手に入るようになりました。材質はしなやかな弾性は勿論、音の響きへの影響や耐久性に加えて、微妙な調整が出来るものが選ばれています。

パールフルートではカンタービレ以上のモデルには合金材(我々のなかではSP-1と呼ばれる、金・プラチナ・銀といった貴金属類を主な材料とする合金)を用いています。このバネ材は高価ですが、しなやかで、微妙な調整が可能である点、高級フルートに適しています。キーを押さえる感覚は全体の調整が繊細になればなるほど、気になってくるもの。ビロードのように滑らかなタッチでありながら、指を離せば素早く戻らねばなりませんし、押して開けるEsキーやGisキー、トリルキーなどは指を離せば確実に密閉しながら、指には反発力の優しいものが欲しくなります。このような相反する要素を高い次元で実現していくためには、微妙な調整が効くバネ材が必要になってきます。勿論、その調整された微妙なフィーリングが長く維持される耐久性も必要です。更にはバネのしなり具合や向きの統一、といった外観にもこだわりをもって調整したいものです。

厳しい目で材料を選んだ、貴重な材料を無駄にしないよう、職人は必要な量を、正確にカッティングしていきます。各バネはポストの取り付け穴に固定されますが、交換を考えなければ接着してしまっても誰も気がつかないかも知れません。しかし、万が一の交換のためには、バネの先端を正確につぶしてポストに固定する手間が必要なのです。

熟練の職人の心と技がこめられた滑らかで信頼感のあるキータッチ。そんな所にも注目して頂けたら幸いです。

第8話 キー・デザイン

ハンドメイド・マエスタのC足(左)とH足(右)。ローラー(C足は一個、H足は二個)の形状が微妙に違うのが分かるでしょうか?この作り分けにも、我々の信念が込められています。これらは「エレガンテ」、「カンタービレ」にも共通の内容です。


足部管には右手の小指で操作する複数のキーが付いています。
もともと力が弱く、不器用な小指にとって、これらのキーデザインは重要なポイントですが、余程変わった形状でもない限りキー・デザインなどどのフルートも変わらない、と思われてしまっている部分でもあります。実は、各社の考え方や個性が現れる部分で、持ったとき、操作したときに差があります。是非今度フルートを構える時に関心を持ってみてください。

写真にある、C足(左)とH足(右)ですが、ローラー(C足は一個、H足は二個)の形状が微妙に違うのが分かるでしょうか?
C足のローラーは太く、つまりC音の押さえがよりし易いのに対し、H足の二つ並んだローラーは若干細く作られています。ローラーなど同じ部品を使えばコスト面からもよさそうなものですが、C足では操作しやすい大きなローラーも二つ並ぶと却って使いづらくなってきます。また、大きなローラーが二個並ぶと、その分幅が必要になり、その横にあるEsキー(コルクの付いている、普段小指を載せているキー)も長く、大きくなり速い操作に影響します。
C足の太めのローラーは角を取り、Esキーへの横移動もスムーズになるように配慮し、またH足には細めのローラーを用い全体のコンパクトさを出すという、使い分けによって、それぞれ小指キーの自由な操作を実現しています。 分かりにくい話になってしまいましたが、要は、C足とH足、それぞれの使いやすいキーデザインは違う筈、というのが我々の考えなのです。

楽器である以上、音色や音程といった話題になるのは勿論ですが、人が操って初めてその性能を発揮します。「操る」というスペックとして語りにくい、地味な観点からも、様々な工夫が長い経験から盛り込まれています。「キーがコンパクトに感じる」「バランスが良い」と多くの方が語る印象。それは、柔らかく美しいシルエットに隠された、使いやすい形状や位置、ストローク、重量のバランスがもたらした、パールフルートの特徴です。

第7話 ロウ付けとハンダ付け

完成してしまえば一体の台座とポストは管体に対する芯金の位置を決める重要な部分。設計寸法とロウ付け・ハンダ付け作業の高い精度が求められます。


冒頭に述べたロウ付けとハンダ付けの使い分けですが、実は製作の順序に従ってハンダとロウ材の融点の差を利用しているのです。標準のものはハンダは融点摂氏450℃くらい、銀ロウは720℃くらからになります。この融点の温度差約270℃がミソなのです。
例えばメカニズムを支えているポスト(支柱)とその下で管体に接している台座(細長い板状のもの)は、ポストを台座にロウ付けし、そのポストと台座がくっ付いたものを管体にハンダ付けします。高い強度の必要なものは先に高い温度で作業し、後の作業は温度が低くて済むハンダ付けを使うのです。もし融点の同じロウを後工程でも使うと、先に付けたロウ付け作業の箇所を傷めかねません。

とは言っても、温度計が付いているわけではありませんので、職人は炎や材料の色、経験から作業温度を微妙に読み取っていきます。ちょっとした間に100度や200度は変化します。うっかりすると折角の貴重な素材が溶けて駄目になるか、鈍ってしまいます。また、ハンダ付け作業で十分かつ綺麗な「付き」を正確に進められるかどうか、職人の技術が現れるところです。

さて、話のついでに材料による熱の伝導性の話もしておきましょう。例えば洋銀ならピンポイントで熱した場所の温度を上げやすいが冷めやすい、銀なら温度の上がり方は緩やかで熱持ちも良い半面、周囲に熱が拡がりやすく、不要な熱を使ってしまう危険性もあります。こんな所も計算に入れながら、音響に影響が出るような熱の使い方はしない、完成してしまえば全く知られることのない部分にも職人の知恵と技が生きているのです。

第6話 ハンダ付け


ハンドメイド・マエスタ、プリスティーンシルバーのハンダ付けトーンホール。精度のあるつくりは奏者の表現したいアーティキュレーションと揃った音の粒を影で支えています。


フルートの各部品はロウ付けとハンダ付けによって作られていくのはご存知の方も多いと思います。炎で接合する部分を熱し、頃合を見て細いロウ材やハンダ材を必要分だけさします。仕上げの美しさもフルートの魅力の一つですが、同時に長い年月の使用に耐えねばいけませんので、その観点からも材料や工法を選んでいます。例えばトーンホールをハンダ付けする時にハンダ材は金ハンダを使いますが、これは劣化のしにくさと強度的な特性を重視したためです。

ハンドメイド・オペラやマエスタのハンダ付けのトーンホールは通常より薄めのパール独自の0.7mm厚を採用しています。パールの特徴である柔らかく明るい音色を大事にしながら、ハンダ付けトーンホールならではの明確なアーティキュレーションやより力強さといった表現の幅を併せ持たせることを試行錯誤した結果、この厚さにたどり着きましたが、ハンダ付けの接着面積は当然小さくなり、通常のハンダでは強度・劣化特性に不安がありました。高価な材料ですが、金ハンダを採用する事で漸く0.7mm厚のトーンホールを自信を持って送り出すことができるようになりました。

職人の技によってトーンホールと管体のつなぎ目は管体とトーンホールが別部品であった事など感じさせないスムーズな仕上がりになっていますが、そんな何気ない所にも我々の理想追求の信念がこめられている事を感じ取って頂けたら嬉しく思います。

第5話 コルク

トリルキーのコルクを薄く削いでいるところ。作業のしやすさから昔ながらの片刃のカミソリを愛用するリペアマンが多いです。


カンタービレのトリルキー。管体の丸みにぴったりフィットするコルクの凹面作り。削りすぎると高さが低くなってしまいますのでピンポイントで面を合わせます。


頭部管の中にコルクが入っている事はよく知られています。同様にE ♭キー、D,D♯トリルレバーの下にクッションの役割としてコルクが使われているのを確認できると思いますが、これらコルクは職人達が一つ一つ楽器に合わせて手でカットし整形しているのをご存知でしたか?

事前に機械で切り出したものを単に接着しているのではないのです。ここで活躍するのは昔ながらの片刃のかみそり刃です。これで材料からおおよその形を作り、レバーに貼り付けた後、殆ど完成の形まで刃一本で削っていきます。管の曲線に合わせて高さも切りそろえます。最後に紙やすりで軽く仕上げて出来上がりです。そんな工程を想像できない程、コルクの表面は平滑に見えます。

よくギザギザやケバだったり、欠けたりしないな、と思われるかも知れませんが、そこは各職人の腕次第。ベテラン職人は腕試しにコルクをりんごの皮むきのように薄く均一に細長く削いでしまいます。この方法の良いところはコルクの節や筋目を見ながらそれらが美しく、かつ使用に差し支え(後日割れたり汚れの付く原因など)ないように材料を上手く使える事、また細い、小さい、微妙な形状も出来る事です。職人のこだわりが微妙な形状差になって現れる部分でもあり、職人たちは雰囲気を見てそのコルクが誰の作品か大体分かるようです(我々が一人ひとりの作風を知っているので分かる事であって、知らない方が見て区別がつく内容ではなく、品質差として感じるわけでもありません)。こんなところにも普段は気にしないようなことがたくさん詰まっています。

もし、コルクの接着が弱くなって剥がれてしまっても保管しておいて頂ければ、簡単に貼りなおせるものです。小さな材料でも大事に美しく使う、これもフルート作りの心です。

第4話 調整ネジ



フルートのメカ部分をよく見るとほんの小さいネジがいくつかあるのをご存知でしょうか?

「調整ネジ」と呼ぶこれらのネジは複数キーの「連絡」(連動する複数のキーがピッタリ同時にトーンホールを塞ぐ事。)のためのもので腕時計製作に使うような精密ドライバーを使用し、製作・調整時に非常に小さな角度で回します。光を透かしたり、非常に薄い紙を挟む感触から微細な隙間を読み取りながら行う工程の一つですので、ユーザーの方々が御使用時に回す目的には考えられておりません(簡単に回らないようにネジ止め剤が塗布されています)。この作業は単に塞がるかどうか、という事を越えて音作りにも関係しており、職人の腕に左右される重要な工程です。最終的にはカップの中(タンポの下)に入れる、最小厚さ0.02mmの調整紙を必要な部分に小さく切って入れ、トーンホールとの部分的なタンポの当たり具合を見ていくのですが、カップ同士のタイミングを合わせるネジ調整も繊細な音作りに影響してくる技術なのです。

このように集中力が必要な作業ですので、ネジを回すドライバー類をはじめ道具はそのままでは使えません。職人がおのおの自分の使いやすいように、更に無駄のない形に加工し、ネジにフィットし傷めたりする事がないようにしています。まず工具の使い方をよく知り、自分の正確な工具を用意できるかどうかから職人の腕は始まっているのです。余談ですが、何の変哲もないドライバーに見えますが、我々が使用するようなものは今日、格安品に淘汰され非常に手に入れにくくなっています。

たまにお客様から「自分で分解、掃除して組み立てた」等のお話を伺いますが、専門職人が集中力と感覚をもって行っている作業であることをご理解頂けたらと思います。我々が拝見すると却って調子を悪くしたり部品の破損が見られたりする事がありますので、手をつけられる前に是非ご相談ください。

第3話 運び方

フルートは他の楽器に比べて大変軽く小さく運びやすいのですが、これがある意味弱点でもあるのです。ああ、メンテナンスが終了して嬉しそうなお客様、肩に楽器を縦にかけて足取り軽く階段を駆け降りていってしまった...今日は意外な盲点、楽器の運び方についてお話しようと思います。

楽譜と一緒にリュックサックに入れたり、ショルダーストラップ付のケースカバーに入れる事も多いと思いますが、その一体感ゆえに思わず「電車が来たぞ!」「信号が変わりそうだ!」...楽器を縦にして走ったり階段を駆け上り下りしてしまうことはありませんか?ベーム式のメカニズムはポスト(支柱)の間にいくつものキーが串刺しになっています。楽器を縦にする事でメカニズムの重量がポストの一点に集中してしまうのです。この小さな一点に縦の衝撃が加われば...ポストは曲がり、ガタが発生します(ユーザーの方が見て触って分かるようなガタではなく、ほんの小さなものです)。

タンポや調整ネジで行う連絡(複数のキーをスムーズに連動させる事)は、あくまでキーカップ(メカニズム側)の横ズレがないことを前提にしています。ガタ、つまりキーカップが横にグラグラしていてはどうしようもありません。こう書くと誤解を受けやすいのですが、隙間が全く無かったらキー達はきつくて動くことができませんので、ある程度は必要なのです。但し言葉からイメージされるグラグラするような隙間ではありません。精密機械にあるような、作動に必要な最小限の「遊び」なのです。その最小限の遊びをどこまで小さくするか、感覚的な問題や寸法交差も含んでいますので楽器によって、更には箇所によって一点一点違います。これもフルートが未だに全自動の量産機械では製作できず、熟練工が手作業で作る理由の一つです。ですので逆に言えば「ガタ」は意外に小さな振動や衝撃でも影響があるのです。

さて、では縦に楽器を運んでは絶対に駄目か?確かに縦にして運ぶからといって必ずしも不具合が起きる(感じる)とは限りません。ただ、歩き方や衝撃が楽器の非常に弱い方向から加わっていますと、お伝えしたいと思います。楽器の価格や保証書はメンテナンス・フリーを保証するものではありません。是非、必要なメンテナンスと取り扱いをして上げて下さい。例えば楽器は横にして運ぶのもその一つ。出来るだけ衝撃や振動から守ってあげること。ユーザーの方が行えるメンテナンスです。その配慮に楽器はきっと応えてくれるはずです。

第2話 銀の黒色化など

「リペアに持ち込まれるお客様のフルートは千差万別、条件・状態差はありますがやはり半年〜1年毎にはメンテナンスをお勧めしています。

さて銀という素材はなにかと話題にされる黒色化がついてまわります。専門家の話を伺いますと、酸化・硫化・窒化により変色が起き(黄色・褐色等)、更に紫外線の影響で黒色へ変化していく、という事のようです。この変化していく速度ですが、これまた実に個人差があります。数時間の演奏で汗に含まれる塩分で真っ白になってしまう方はかなりおられます。これらの汚れはしっかり付いてしまっているので掃除もより大変になりますし、掃除で完全に拭いきれませんのでどうしてもその症状は進みやすくなるわけです。反対に10年近く使ってもごく普通に拭いているだけでほとんど何も変色が起きない方もおられます。速い方で半年以内、平均的には1年〜2年くらいでメカやキー、拭けない影の部分が「いぶし銀」になっていく、というところでしょうか。

それよりも我々が気にするのは実は外から見えないメカ同士のすり合わせ部分です。汗はなかなか浸透性が強く、気付かぬうちに中で固まってしまい、放置すると錆びてしまいます(ステンレス材やコーティング処理等で変化する時間の延長は望めますがやはり錆びていきます)。この症状は突然来る事も多いので表から状況判断する事が難しいのです。

普段の手入れは埃の出にくいきれいなクロスで表面を拭いて頂く事、通常これで十分ですので専門技術がない限りご使用者による注油はお勧めしていません。定期メンテナンスは御使用や保管状態によって進行する各メカ間のばらつきを戻す以外にも上記ような症状の進行を食い止め長くご愛用頂くための愛情と手間暇、とご理解頂ければと思います。」

第1話 フルートづくりのスタートは管の加工から

フルートという楽器をつくる上でもっとも基本的でしかも大切なのが、製管と呼ばれる管の加工です。みなさんご存じだとは思いますが、頭部管は先端に向かってテーパーがかかっている(つまり徐々に細くなる)のですが、パールでは3タイプのテーパーが用意されています。これらは、もともとまっすぐな管だった素材を、特殊な加工技術と熱処理によってあの独特な形状を作り上げていくのですが、これにはなかなか緻密で高度な技術が必要となります。

また、胴部管、足部管にはトーンホールがありますが、これはフルート設計の根幹ともいえる部分で、オーケストラのフルーティストに圧倒的な人気のあるピッチには、パールフルートの音に対するポリシーが明確に現れているのです。トーンホールの加工には、ハンダ付けタイプと引き上げタイプがあり、それぞれ全く異なる工程が組まれています。ハンダ付けタイプの場合はかなり熟練した技術が求められ、引き上げ管でもいくつもの工程を慎重に進めていくので、相当な神経を使います。

また、製管にはさらに接続管の加工というのがありますが、これは頭部管、胴部管、足部管をそれぞれつなぐ部分で、内径をそれぞれの管の外径に合わせるすり合わせ、という作業があります。これらすべての作業が、機械まかせではなく、人の手によって進められていくので、フルートづくりではとっても重要な作業といえるでしょう。

パールフルートを作る人

私がパールフルートに勤め始めて19年になります。その長い道のりにはいろいろな苦労がありました。なかでも忘れられないのが、金という素材に取り組み始めた時のことでしょう。それまで、素材といえば銀と洋銀がほとんど。金管とはいっても同じ金属だとたかをくくっていたのがそもそもの間違いで、あれほど悩まされるとは思いもよりませんでした。

たとえば引き上げ管では、トーンホールがまるで新種のチューリップの花弁の様になってしまったり、成功したと思いカーリングまで進めると割れてしまったり、カーリングまで上手くいきこれで完璧かと思いきや、亀裂が入っていたりと、とにかく最初の頃は何本もの管をダメにしてしまい、思い出すだけで頭が痛くなる毎日でした。

その後いろいろな研究を重ね、経験を積み、今では信頼できる楽器を安定してお届けできる様になりました。とはいえ私にとってはドキドキ、ハラハラの毎日がこれからもずっと続くことになると思いますので、一日一日、一本一本を大切に、こだわりをもって作り続けていきたいと思います。

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